未来企業の会12月例会

平成10年12月7日(月)18:30〜21:30

 

1 事業の陳腐化について

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松岡社長も途中から参加。熱のこもったディスカッション

 

 

 P.F.ドラッカーの「経営論集」(ダイヤモンド刊)をテキストに、第8章「事業の陳腐化」の「事業の定義」の項を朗読し、議論を始めた。
 P.F.ドラッカーは、事業の定義は、「経営環境・使命・強み」の三つ要素からなると言っている。
 参加メンバー各社の事業そのものが、社会のニーズにマッチしたものなのか、また、将来においても必要とされるものかを「事業の定義」を再確認し、検証することにより明らかにするため、三つの要素について、具体的な自社の現状をレポートにして提出してもらった。
 提出のあったメンバーは(株)最上インクス、洲崎鋳工(株)、星和情報システム(株)の3社(例会終了後、(株)キョークロからも提出あり)の事例についてディスカッションを行った。
 1.組織をとりまく環境 2.組織の使命 3.組織の強みのそれぞれについて、自社に当てはめて整理してもらったが、事業の定義はP.F.ドラッカーも「言うまでもなくこれらは、嘘かと思うほど単純にみえる。もちろん、そのような明瞭かつ一貫性のある有効な定義にたどりつくには、時間をかけた作業と、思考と、思考錯誤を必要とする。だが、組織が成功するには、必ずこの事業の定義を行わなければならない。」と言っているように、短時間で分析し、整理することは不可能であるが、企業経営には不可欠な作業であり、常に考え続ける必要がある。
 また、単純に見えることであっても、下請製造業的な中小企業にとっては、あまりにも漠然としたものであり、経営者の思いだけが先行している嫌いがあって、多分に経営者の勘に頼っているため、客観的に言葉で表現は至難の技である。
 このような現状を承知の上で、敢えて言葉にすることは、将来に向けた事業を定義する上で、非常に意義あることである。
 第1に、組織をとりまく環境については、社会とその構造、市場と顧客、そして技術の動向はどうなっているかを明らかにする必要がある。
 各社のレポートを見ると、情報化の進展、社会資本への投資の増加などが上げられているが、鳥井氏から提出された資料にあるメガトレンドとして挙げられている「国際化」「サービス化」「情報化」「環境化」「高齢化」(高齢化は日本等の一部の地域的なトレンド)などが大きな意味での組織をとりまく環境の変化と言える。
 しかし、下請中小企業を考える場合、親企業を頂点とするピラミッド型の下請分業構造が水平分業へと変化している構造的変化が大きな環境変化と言えるのではないか。ゆわゆる自立化を迫られているのであり、自立化のチャンスでもある。
 また、P.F.ドラッカーは「すでに起こった未来」(経営論集第1章)で「人口構造の変化」(いわゆる先進国での少子化による人口減少)と情報化の進展による「マネジメントの変化」(組織構造がフレキシブルに変化する)が現在の状況から必然的に起こることとして、予測ではなく、当然の帰結と述べており、これらの点も改めて考えてみる必要がある。
 自社をとりまく環境として、「社会構造」「市場と顧客」「技術動向」が今どうなっており、今後どう変わるのかを十分に把握する必要があり、各メンバー企業の具体的な現象から次回も引き続き、再検討してみることとする。
 特に、市場(マーケット)はどこにあり、顧客は誰かについて、掘り下げて見たい。技術動向については、どのように技術動向に関する情報を入手しているかを再確認することとする。
 第2に、組織の使命については、組織が何を意義ある成果とするか。経済や社会に対して、如何に貢献するかを明らかにすることである。P.F.ドラッカーの「現代の経営」では、「事業の目的」において述べられている事か?
 各社のレポートによると、「薄板板金技術で社会に貢献する。」「情報技術とお客様の橋渡しをする。」「素材・機械部品のトータルサプライヤーとなる。」などがあるが、ディスカッションの中では、企業経営を通じて、「人を育てること」を社会的な使命とする考えもあった。ただ、後で考えて見ると、ここで言う使命とは、顧客があって、対価を得られる事は何かが問われており、「人を育てること」は、環境が変わろうが、顧客が変わろうが、いつまでも変わらない「理念」のようなものだと思われる。
 ここでは、シアーズローバックやAT&Tの例のように、誰の為に何をしようとするのかを明らかにすることが求められており、例えば、「世界に超精密シートメタルパーツを供給する。」とか「小型機械パーツの機能的性質を確保し、保証する」といった事業(この例は、考えた割には、いまひとつの感じがしています。)の究極の目的が使命となるのではないだろうか。
 この点についても、次回に、各メンバー企業の使命を現在の事業内容から「誰の為に何をしようとするのか」と言った表現で整理してみることにする。
 第3に、組織の強みについては、上記のような環境において、使命を達成するために必要とされる強みとは何かを明確にしなければならない。
 これらは、比較的認識しやすいように思われるが、実際には、自らが気づいていないことが自社の強みになっていることも考えられることから、外部からの指摘も貴重な分析となる可能性もある。
 今回提出されたレポートでは、「簡易金型製作技術」「鋳物鋳造技術」「商品企画力」などが挙げられており、将来にわたっても、これらの技術を強みとして磨きをかけることが必要である。
 次回は、各社の強みを具体的な能力として表現して見たい。
 今回のディスカッションを通じて、下請製造業は加工サービス業であり、製造技術がドメイン(事業領域)と考えると陳腐化はないはずとの意見があった。しかし、環境、使命、強みを、事業を定義するための要素と考えると、やはり陳腐化は避けられないのではないかと思われる。この点は、十分理解できていないので、再度、議論してみたい。
 また、最近の中堅企業や大企業の一部では、事業の定義が揺らいでいるところが多くなっているのではないか。また、そのことに気づいていない企業もあり、今何をすべきかの答えを出せずに、利益をだすことに汲々としているところが多くなっている。中小企業であってもこの事業の定義が明確になり、短期的な利益追求ではなく、本来的な顧客の創造に成功すれば、大企業とのパートナーシップはもとより、従来の「系列」を逆利用することも可能ではないかとの心強い発言もあった。
 ※今回の報告は、主観的な部分が多く、今後さらに議論を重ねる必要性を強く感じたため、次回に改めて具体的な事例からディスカッションをしたいと考えている。詳細な感想を鳥井氏が電子メールで報告いただいているので、こちらも参考にしていただきたい。
 また、今回レポートの提出がなかったメンバーは必ず、次回までに自分なりのレポートを作成してもらいたい。
 出来れば、相互に電子メールでレポートの公開をお願いします。
 ※自社の事業について分析する時、鳥井氏(トリイマネジメント)のホームページにある「経営ビジョンをつくる2<あたなの企業は何業か>が参考になるかもしれません。

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